海外の金融商品に投資する場合に、避けて通る事ができないのが為替リスクです。今回は、為替オプションを使ったいくつかの為替リスクの管理方法を紹介したいと思います。
FXによる通貨売り
個人投資家が取りうる最も単純な為替のヘッジ方法は、FXによる外貨売りだと思います。
例えば、あなたは、1年後が満期のドル建て債券を1万ドルで購入するとします。この時の為替レートが1ドル=105円だとすると105万円で購入する事ができます。もしこの債券について為替リスクを負いたくなければ、ヘッジのために債券の購入と同時にFXで1万ドルのドル売りを実施します。
もし為替レートが円安方向に進んだ場合は、このFXの売りポジションから損失が発生するため、最低証拠金に加えて、想定される損失に耐えられる金額をFX口座においておく必要があります。そうしなければ、強制ロスカットされてしまいます。ここで、もしあなたが、為替レートは円安方向に向かうならば1ドル=115円くらいまでだろうと考えるのであれば、口座にいれておく必要がある資金は、約15万円ほどとなります。
では、このポジションの利回りを円建てで計算してみたいと思います。ここで、購入した債券が金利3%のものだったとすると、1年間で300ドルの利息が収入となります(1万ドル×3%)。
FXによる為替ヘッジは元本の1万ドルのみにされているため、利息の300ドルは為替ヘッジされていません。このため、円建ての利息収入は、利息受取時の為替レートによります。ここで、利息受取時の為替レートがもともとの105円だったと仮定すると、日本円で31,500円の収入です(300ドル×105円)。一方でこの取引に関する支出は、FXで売りポジションを維持するためのスワップポイントの支払いです。2020年10月現在の水準に照らして、1日のスワップ支払いが40円だとすると、支払いは14,600円となります(40円×365日)。この結果、純額の収入は16,900円になります(31,500円-14,600円)。
これが利回りがどのくらいかというと、債券購入とFXによるヘッジにより拘束された資金が120万円(105万円+15万円)ですので、約1.4%になります(16,900円÷120万円)。
オプションのプットを購入してヘッジする
次にプットオプションを使って為替リスクをヘッジする方法を見てみます。
ドル円のプットオプションを購入するという事は、円高進行に対する保険を購入するという事と似ています。オプションのプレミアム(保険料)を支払い、プットオプションを保有します。もし、為替レートが円高方向に進んだ場合、プットオプションの価格が上昇し、そこから得られる利益で、外貨建て資産の為替損失をヘッジします。
例えば、4か月後が満期、利回り年3%のドル建て債券を1万ドルで購入するとします。この時の為替レートが1ドル=105円だとすると105万円で購入する事ができます。そして、同時に1万ドル分の4か月後が満期のプットオプションを行使価格100.5円で、1ドルあたり0.646円のプレミアム(保険料)で購入します。このオプションの購入代金は、6,460円です(0.646円×1万ドル)。
それではこの取引の収支を考えてみたいと思います。
・為替レートが110円になった場合
為替レートが4か月後に110円になったと想定してみましょう。
利息収入は100ドルとなります(10,000ドル×3%×4/12)。為替ヘッジは元本の1万ドルのみに実施されているため、この100ドルは為替ヘッジされていません。このため、円建ての利息収入は、利息受取時の為替レートによります。ここでは為替レートは基の110円なので、日本円で11,000円の収入です(100ドル×110円)。
利息収入に加えて、為替が円安方向に進んだ事による元本の為替差益も50,000円発生します(10,000ドル×(110-105))。
一方で、購入したプットオプションの価値はなくなり0となりますが、購入金額以上に損失が出る事はありません。つまり、この取引に係る支出は、オプション購入代金の6,460円のみです。
収入と支出の差引は54,540円(11,000+50,000-6,460)です。利回りは、債券購入代金とオプションの購入代金を考慮すると、5.16%となります(54,540円÷(1,050,000円+6,460円))。これを年換算の利回りに直すと20.65%となります。
・為替レートが105円のままの場合
為替レートが4か月後も変化せずに105円のままだと想定してみましょう。
利息収入は100ドルとなります(10,000ドル×3%×4/12)。為替ヘッジは元本の1万ドルのみに実施されているため、この100ドルは為替ヘッジされていません。このため、円建ての利息収入は、利息受取時の為替レートによります。ここでは為替レートは基の105円なので、日本円で10,500円の収入です(100ドル×105円)。一方で、購入したプットオプションの価値はなくなり0となりますが、購入金額以上に損失が出る事はありません。つまり、この取引に係る支出は、オプション購入代金の6,460円のみです。
収入と支出の差引は4,040円(10,500-6,460)です。利回りは、債券購入代金とオプションの購入代金を考慮すると、0.38%となります(4040円÷(1,050,000円+6,460円))。これを年換算の利回りに直すと1.147%となります。
・損失となる場合
4か月後に為替レートが90円となった場合を想定してみましょう。
利息収入は100ドルとなります(10,000ドル×3%×4/12)。為替ヘッジは元本の1万ドルのみにされているため、この100ドルは為替ヘッジされていないので、円建ての利息収入は、利息受取時の為替レートによります。ここでは為替レートは基の100円なので、日本円で9,000円の収入です(100ドル×90円)。債券元本の損失は15万円((105円-90円)×1万ドル)。オプションから得られる利益は、10.5万円((100.5-90)×1万ドル)。
トータルの損益は、42,460円の損失となります(9,000円+105,000円-150,000円-6,460円)。
これでは、単純にFXでショートした方がいいような気がしますね。
プット購入にコール売りを組み合わせてみる
それでは上記のプット購入の例に、同時にコールオプションの売りを組み合わせたらどうなるでしょうか。オプションの売りは、オプションの買いとは逆に保険屋さんになって取引相手に保険を売るというイメージです。コールオプションの売りは円安方向に向かうと都合の悪いと考えている人に対して保険を売る取引になります。
コールオプションを売るとプレミアムという保険料を得る事ができます。ここでは行使価格が107円のコールオプションを1ドルあたり0.7円のプレミアムで1万ドル分売る事とします。このポジションは、FXで売りポジションを持っているのと同様に、ドル円相場が円安方向に上昇していくと損失が発生しますので、損失が発生した時のために証拠金に加えて口座にお金を入れておく必要があります。
もしドル円相場が117円よりは上がらないだろうと思うならば、15万円ほど口座に入れておく必要があります。
それではこの取引の収支を考えてみたいと思います。収支の要素が増えていますので箇条書きにして書き出していきます。
【4か月後にドル円相場が110円になった場合】
- 利息収入:10,000ドル×3%×4/12=100ドル 100ドル×110円=11,000円
- コール売り収入:0.7円×10,000ドル=7,000円
- プット買い支出:0.646円×10,000ドル=△6,460円
- 債券元本の為替差益:(110-105)×10,000ドル=50,000円
- コール売りの損失:(107-110)×10,000=△30,000円
1から5の合計:31,540円
利回りは、債券元本、プット買いの資金、コール売りにより拘束される資金を考慮すると2.6%となります(31,540÷(105万円+6,460円+15万円))。年換算で7.8%です。
【4か月後にドル円相場が105円で変わらなかった場合】
- 利息収入:10,000ドル×3%×4/12=100ドル 100ドル×105円=10,500円
- コール売り収入:0.7円×10,000ドル=7,000円
- プット買い支出:0.646円×10,000ドル=△6,460円
- 債券元本の為替差益:(105-105)×10,000ドル=0円
1から4の合計:11,040円
利回りは、債券元本、プット買いの資金、コール売りにより拘束される資金を考慮すると0.9%となります(11,040÷(105万円+6,460円+15万円))。年換算で2.7%です。プット買いにかかる支出がコール売りの収入でまかなえているため、単純にプット買いだけをするより収支が改善されています。
【4か月後にドル円相場が90円になった場合】
- 利息収入:10,000ドル×3%×4/12=100ドル 100ドル×90円=9,000円
- コール売り収入:0.7円×10,000ドル=7,000円
- プット買い支出:0.646円×10,000ドル=△6,460円
- 債券元本の為替差損:(90-105)×10,000ドル=△150,000円
- プット買いの利益:(100.5-90)×10,000=105,000
1から5の合計:△35,460円
このように赤字となります。ただしプット買いにかかる支出がコール売りの収入でまかなえているため、単純にプット買いだけをするより損失が縮小されています。
プット買いとコール売りの組み合わせは、プット買いで支払うプレミアムをコール売りで受け取るプレミアムでまかなうという発想です。今回の例では、107円のコールの受取プレミアムで100.5円のプットの支払いプレミアムをまかなっている形になりましたが、もう少し狭いレンジ(例えば106円コールと102円プットとか)のオプションを売買してプレミアムの収支が均衡するのであれば最大損失はもう少し小さくすることができます。
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